底は深い

 中共の8月は、政治の季節だ。例年の慣例だと、毎年7月末から8月始め頃の2週間、中共中央の最高幹部らは北戴河での避暑を過ごす。北戴河での非公式の政治的駆け引きが、その後、秋からの公然政治日程において、中共の方針として顕在化する。
 これまでの慣行だと、北戴河休暇の1月ほど前には、中共政治局常任委員会成員が地方各地に入り、実際に現地了解した上で北戴河に入っていた。昨年7月は、習近平は内モンゴル、李克強は上海、全人代常務委員長の栗戦書は湖南、中央政治局常務委員で政協主席の王陽は青海…といった具合である。
 もっとも、今年は新型コロナの影響で、中共中央指導部の地方巡視活動も昨年ほど活発ではない。しかし、7月22日から24日に欠けて、習近平は吉林に入り、トウモロコシ農場の視察を行い、四平戦役記念館で中共が打ち立てた社会主義の大義を守ることが難しいとの発言を残している。経済に関していえば、今年5月頃以降、中共中央の習近平に近い幹部は、中国国内の経済運営について、本体としての国内循環の重要性を強調し始めており、これは、合衆国側からのデカップリング論に見られるような対外経済環境の悪化に対抗する動きと考えられよう。
 「経済基盤が上部構造を決定する」との認識は現在の中共の統治支配理論の根幹にあり、一般民衆に対する中共の統治の正統性は、経済発展の程度に規定され担保されるという認識を裏打ちするものだ。新型コロナの影響により、中共経済の外部環境は悪化し、中国の対外貿易の状況も複雑困難な状況に追い込まれている。加えて、合衆国陣営からの政治的圧力の強化による外部政治環境の悪化も伴い、対外経済活動で中共が主導権を確保しつつ局面転換を図る展望は開けない。
 内に目を向ければ、今年後半の中共の経済発展の程度は、中共が内政安定のために重視する雇用維持のみならず、国内の貧困対策工作の成否にも直接関係する。習近平と李克強がこの点で必ずしも歩調が合っていないことからすれば、中共指導者にとっては、経済問題が今年の夏の最重要関心事項であることには、違いない。国際情勢の流動がなくとも、コロナの世界的流行がなかったとしても、今年の夏の北戴河の関心事は、来るべき第14次5カ年計画に向けた今年後半の第19期中共中央委員会第5回全体会議の運営だったはずであり、その点から見れば、今年の全人代における李克強の「露店経済」方針や全人代閉会後の貧困層発言は、今年の北戴河に至る道程の中で散った火花であったことは、明らかである。

 対内政治であれ対外政治であれ、また、経済的問題であれ政治的問題であれ、最終的にはそれらは全て相互に関連し影響し合う。現在の中共の対外政治問題は、中共の今後の国家の存亡に直接関係する重要問題であるには違いない。しかし、中共国内の経済問題は、中共の国内での強圧政治に対する人民の不満をなだめる意味からも、人民生活と社会の安定に直結する最重要問題である。中共中央の重要な政治課題は、常に不満のエネルギーが充満する国内情勢をどのように沈静するかであり、国内問題の解決策をどの方向に定めるかが、それ以外の中共の行動の制約要因となって現れる。
 現下の中共を取り巻く情勢を分析するに当たって、どうしても、その外部環境の急激な悪化、特に合衆国との対立の深刻化に目を奪われがちである。だが、8月は、中共中央指導部にとって、重要な「政治の季節」だ。中共が内政、外交、軍事の各分野のどの方面で攻勢に出るのか、その方針を決定するにあたって、指導部での内部紛争がどの程度激化するか、じっくりと見ておく必要がある。目立たない小さなさざ波が、後で大きなうねりとなるのは、いつものこと。光に目をとられて、陰の部分での小さな動きを見落としてはならない。